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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)739号 判決 1968年10月17日

上告人

株式会社北海道相互銀行

代理人

矢吹幸太郎

曾根理之

被上告人

空知商工信用組合

代理人

上田保

中島一郎

横路孝弘

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人矢吹幸太郎、同曾根理之の上告理由について。

中小企業等協同組合法(以下単に協同組合という。)四四条にいう「従たる事務所」とは、主たる事務所から離れて一定の範囲内で独自に当該協同組合の事業に属する取引を決定、施行しうる組織の実体を有するものをいうとすることは、当裁判所の判例とするところである(昭和三七年一二月二五日第三小法廷判決民集一六巻一二号二四三〇頁参照)。したがつて、かかる実体を有しない従たる事務所においては、その事業の主任者たることを示すべき名称を附された者があつても、原則として、その者を参事と同一の権限を有するものとはみなしえないものといわなければならない。しかしながら、かかる実体を有しない従たる事務所についても、これが従たる事務所として登記されている場合には右と同一に論ずることはできない。けだし、協同組合法四四条二項が、協同組合の参事について、商法四二条を含め商法の支配人に関する一連の規定を準用しているのは、その事業上の地位の重要性に鑑み、支配人と同様にその権限を法定することによつて取引の安全を保護しようとするにあると解せられるゆえ、従たる事務所の事業の主任者たることを示すべき名称を附された者の行為の効力についても、商法の定めるところと同様の法理に従うべきものと解するのが相当だからである。商法によれば出張所、支社等において営業の主任者たることを示すべき名称を附せられた者がある場合でも、右出張所等が商法の意義における支店の実質を備えていないときには、その者を支配人と同一の権限を有するものとみなしえないことは当裁判所の判例とするところである(昭和三七年五月一日第三小法廷判決民集一六巻五号一〇三一頁参照)が、もしこれについて支店としての登記がある場合には、商法一四条により、その登記をした商人は、その登記の不実なることをもつて善意の第三者に対抗しえない結果、商法四二条の規定の適用に当たつては、これを本来の意味における支店として取り扱わざるをえず、右の者は裁判外の行為については支配人と同一の権限を有するものとみなされるのである。表見支配人に関する商法の規定が外観理論ないし禁反言の法理に基づくものであり、協同組合がこの規定を準用していることに鑑みれば、同法に基づく協同組合についても右と結論を異にする理由を見出しえない。したがつて、協同組合が商法上の商人でないため、同法は明文をもつて個別的に商法の規定を準用する態度をとりながら、商法一四条の規定を準用していないけれども、少なくとも表見参事に関しては、この規定を右の協同組合にも類推適用すべきものと解するのが相当である。

ところで、原審の確定するところによれば、被上告人の峰延営業所は、従たる事務所として登記されており、石川登吉はその営業所長であつたというのであるから、相手方の悪意等他に特段の事情のないかぎり、被上告人は右石川の振り出した本件手形について振出人としての義務を負うものといわなければならないことは、前段の説示に照らして明らかである。しからば、これと異なり、本件に同条の類推適用を否定することによつて被上告人の本件手形上の義務を否定した原判決は、協同組合法四四条二項および商法一四条の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、この誤りが原判決の結論に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、上告人の本訴請求について、さらに審理を尽さしめるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致で主文のとおり判決する。

(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

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